体育会系の主治医というのは思いのほか大変で、どう大変かというと、いつもランニングシャツ一枚で声がでかくて何かにつけて「先輩っ!自分〜っす!」が口癖で、キャバクラでは必ず「オレはむかし手のつけられないワルでね……」と言って女の子にキッスを迫り、しかもきっちり1セットで帰るのに「昼間、外で会おうよ、ね、ね」としつこく誘ってくる、ということもあるが、本当に困るのは、その「口の悪さ」だ。
例えば、「死んでしまえ」と言うのだ、患者に向かって。一回でも薬を飲み忘れると「死んでしまえ!」、夕立にあってびしょ濡れで病院に行くと「死んでしまえ!」、循環器内科の美人受付嬢を飲みに誘っていると今度は「死ねっ!」と突然現れて、殴られた。グーで。あぁ、そうかぁ、シュバルツバルト二世にとっては「死んでしまえ」は「こんにちは」と同じ挨拶なのかぁ、と消えゆく意識の中で悟りを開くが、ちょっと遅かった。彼はガタイがいいから(なにせ体育会系なのだ)グーで殴られたら本当に死にそうになるのだ。5分ほど脳震盪で頭がくらくらしてしまって、ソファーで横になっていた。
雨の降りつづいていた九月末、僕は定期検診で病院へ行った。
1時間ほど待ってやっと名前を呼ばれた。「なんだよ、てめー、まだ死んでねーのかよ」とシュバルツバルト二世。はい、一応、元気です!「とりあえず、地下行って、レントゲン撮ってこい」と言われ、また1時間かけてレントゲンを撮る。(撮影待ち40分、撮影5分、現像待ち10分、移動5分)
レントゲン、撮ってきました!「よっしゃ、次、採血。早く三階行ってこい。さっき、ついでに言うの忘れてたわ、ははは!」ということで今度も1時間弱で採血完了。そうこうしてるうちに、もう時計の針は12時を回っていた。「遅せーよ、なにもたもたしてんだよー、死んじまえ!」とかなんとか言いながら、レントゲンと採血結果を見ながら聴診&触診「………………」。えーっと、沈黙?
「おまえさー。さいきん、どうなの?」「いやぁ、いたって普通ですけど」「くすり、飲んでるよな?」「はい、このまえ注意されてからは朝晩かかさず、飲んでます」「だよな、それは採血結果見りゃわかんだけどさー、いや、おまえ、ひょっとすると……。おまえ、家族は近くにいんの?」「え?」「だから、家族は近くに住んでんのかって」「いやぁ、けっこう遠いんですよ、遠距離ファミリーなもので」「なにそれつまんねー、とりあえず家族はすぐには来れないんだな? あっ、そう」
またしても、長い沈黙。
そして突如、シュバルツバルト二世は看護婦さんに向かって大声で何かの薬品名を叫び、いつもの看護婦さんが「太っとい注射」を二本、慌てて持ってきた。
「とりあえず注射、打っとくわ。焼け石に水、かもな、ははは!」(ははは、じゃねーだろ。しかも『焼け石に水』って、医者にあるまじき表現だな)
「はい背中出して。この注射、死ぬほど痛いよ?」
「え?」
「死ぬほど痛いけど、死なないでね〜」
「え?」
「はい一本目♪」
「 !!!!!」(←言葉にならない悲鳴)
これが今から半年前の話。
第08話「シュバルツバルト二世」
2007.03.11例えば、「死んでしまえ」と言うのだ、患者に向かって。一回でも薬を飲み忘れると「死んでしまえ!」、夕立にあってびしょ濡れで病院に行くと「死んでしまえ!」、循環器内科の美人受付嬢を飲みに誘っていると今度は「死ねっ!」と突然現れて、殴られた。グーで。あぁ、そうかぁ、シュバルツバルト二世にとっては「死んでしまえ」は「こんにちは」と同じ挨拶なのかぁ、と消えゆく意識の中で悟りを開くが、ちょっと遅かった。彼はガタイがいいから(なにせ体育会系なのだ)グーで殴られたら本当に死にそうになるのだ。5分ほど脳震盪で頭がくらくらしてしまって、ソファーで横になっていた。
雨の降りつづいていた九月末、僕は定期検診で病院へ行った。
1時間ほど待ってやっと名前を呼ばれた。「なんだよ、てめー、まだ死んでねーのかよ」とシュバルツバルト二世。はい、一応、元気です!「とりあえず、地下行って、レントゲン撮ってこい」と言われ、また1時間かけてレントゲンを撮る。(撮影待ち40分、撮影5分、現像待ち10分、移動5分)
レントゲン、撮ってきました!「よっしゃ、次、採血。早く三階行ってこい。さっき、ついでに言うの忘れてたわ、ははは!」ということで今度も1時間弱で採血完了。そうこうしてるうちに、もう時計の針は12時を回っていた。「遅せーよ、なにもたもたしてんだよー、死んじまえ!」とかなんとか言いながら、レントゲンと採血結果を見ながら聴診&触診「………………」。えーっと、沈黙?
「おまえさー。さいきん、どうなの?」「いやぁ、いたって普通ですけど」「くすり、飲んでるよな?」「はい、このまえ注意されてからは朝晩かかさず、飲んでます」「だよな、それは採血結果見りゃわかんだけどさー、いや、おまえ、ひょっとすると……。おまえ、家族は近くにいんの?」「え?」「だから、家族は近くに住んでんのかって」「いやぁ、けっこう遠いんですよ、遠距離ファミリーなもので」「なにそれつまんねー、とりあえず家族はすぐには来れないんだな? あっ、そう」
またしても、長い沈黙。
そして突如、シュバルツバルト二世は看護婦さんに向かって大声で何かの薬品名を叫び、いつもの看護婦さんが「太っとい注射」を二本、慌てて持ってきた。
「とりあえず注射、打っとくわ。焼け石に水、かもな、ははは!」(ははは、じゃねーだろ。しかも『焼け石に水』って、医者にあるまじき表現だな)
「はい背中出して。この注射、死ぬほど痛いよ?」
「え?」
「死ぬほど痛いけど、死なないでね〜」
「え?」
「はい一本目♪」
「 !!!!!」(←言葉にならない悲鳴)
これが今から半年前の話。