「愛人(ラ・マン)」 ユキノさん08ラスト!

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「デートクラブ、やめちゃった」

 ドトールでアイスコーヒーを飲みながら、ユキノさんが言った。出会ってから1ヶ月目のことだった。台風が過ぎ去った後で、空は遠くまでよく晴れていた。とても高いところに細い霧のような雲が2、3本見える。「やめたって…、それじゃあ、今、何してるの?」

 ユキノさんは「あいじん」とあの微笑みで答えた。僕は、へぇあいじんねぇと心の中でつぶやきながら「あいじん……アイジン……………ラ・マン!?」と叫び、飲んでいたアイスコーヒーを「ブフェッ」と噴出すそぶりをした。そぶりなので実際は一滴も噴出していなかったがユキノさんは「やだぁ、きたない〜」と嬉しそうにジタバタしてくれた。
 
 僕はユキノさんに向き直り、けっこうな真顔でたずねた。「あいじんって、あの愛人ですか?」「そう」「だれの愛人?」(このころにはもう、腹立たしさでムカムカしていた)「まーくん」(まーくんって!どこのボンボンやねん!!)

 曲がりなりにも桜井、あれから50万近く稼いだんですけど、そりゃまぁマンションの頭金にすらなりませんけれども、でも聞いてよユキノさ「あ、まーくん、こっちこっち」ってユキノさん誰に手招きしてんの? 「さくらいくん、紹介するね、この人が、まーくん」

 まーくんは、その名のとおり、童顔で、背が低くて、子犬のようにコロコロ笑っていた。でもスーツは高そうだったので、どこかの医者か、どこかの社長みたいだった。歳は50歳前後かな? まーくん、ユキノさんにキャッシュでマンション買っちゃうぐらいだし、しかもカードはアメックスのブラック(←初めて実物見た)だったし、桜井の50万と比べたら月とすっぽん、アルファロメオと三輪車である。

(桜井も近年まで知らなかったのですが、カードにはゴールド、プラチナ、さらにブラックがあるらしく、ブラックだとロールスロイスがぽんっとサインで購入できるらしいです(噂))

「あ、はじめまして、桜井と申します」(←桜井)
「これは、これは、ご丁寧に、どうもありがとうございます」(←まーくん)
「自分、いま、キャバクラでボーイやってます」
「そうですか、キャバクラですか」
「たまにスカウトマンごっこもしています」
「そうですか、スカウトマン」
「ね、まーくんも、自己紹介してよ」(←ユキノさん)

 まーくんは、ちょっと「はにかみ」ながら、胸から名刺を取り出して、渡してくれた。その名刺には「**株式会社代表取締役社長」と書かれていて(やっぱ社長なんだ)と納得し、でもなぜか名刺の素材は『和紙』でできており、あれ、こういうタイプのどこかでよく見かけるんですけど? と思って、まーくんの名前をじっくりとよくみて桜井が「あっ!」と顔をあげた瞬間まーくんは「にっこり」と微笑んで「フランデルベグストラーダと申します」

 と、言ったところで、このお話は、終わる。





 



 ドトールの外には黒服の男30人とリンカーン・リムジンが2台停まっていた。



デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.13

「フランデルベグストラーダさん」 ユキノさん07

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「新宿」→「日本一の繁華街」→「美女多数」→「成功報酬高額」→「大金持ち」→「ユキノさんにマンション買って二人で明るい未来に向かって一歩一歩進んでいく」(←当時の桜井のあたまのなか)

 ユキノさんに出会ってからの僕は、良く言えば生まれ変わったみたいに、悪く言えば気が狂ったみたいに、女の子に声をかけまくっていた。なりふり構わず、ちょっとでもかわいい女の子がいたら、走っていって、よってたかって口説きまくった。
「さいきんの桜井、なんか生き急いでるな。あんながっついて、もめなきゃいいけど」とそこかしこで言われていたが、僕は気にせずガンガン声をかけまくっていた。一度、カップルに声をかけてしまい、彼氏と一触即発になったが、彼女に名刺だけをこっそり手渡して、逃げた。
 でもある日、やっぱりとうとう事件が起きてしまった。



 他のスカウトマンが声をかけている最中の子に、僕も横から声をかけてしまったのだ。(※作者注:死刑に値します)
 そのかわいい女の子しか視界になくて、他のスカウトマンがいることになんてまったく気がつかなかったのだ。
「オイ、ちょっと待てよ」男の目が血走っていた。「おまえ、ンなんだよ?」(近い、顔が近いよ)
 そのかわいい女の子は猛ダッシュで逃げてしまい、そしてどこからともなくそいつの仲間がわらわらと集まってきた。(マドハンドかよ)とつっこみを入れる余裕があったのは最初2、3人までで、その数が10人を超えたあたりから(ルーラ、ルーラッ!)と心の中でむなしく叫んでいた。その連中の一人、見るからに薬やってそうな目のいっちゃってる日焼け男が、丁寧な口調で聞いてきた。「どちらの方ですか?」びびる桜井。視界に僕の仲間は…いない。「お尋ねしますが、どちらの方ですか?」
 僕は必死になって「あの名前」を思い出して、言った。
「あ、あの、スタラグラーど」「スタラグラーど?」「ストラグらーだ?」「ストラグらーだ?…っておまえ、からかってんの?」やべぇ、なんで「山田」とか「田中」とか単純な名前じゃないんだよおいと思ってみたところで、事態は一向に展開するわけもなし。
「ちょっと、いっしょに来ていただけませんかァ?」ああ、殺された、と思った。うん、殺されたな。冷たいスチールの机に正座させられて目玉に「わりばし」突き刺されてぱーんって破裂して次は尿道に(以下自主検閲)
 
 僕が(まぁまぁみなさん落ち着いて、冷静に)というジェスチャー及び言語を死にものぐるで発しても、誰一人として理解してはくれず、そしてとうとう僕の右手がシャブ中男の下僕に掴まれてしまった。しっかと。
(お父様、お母様、先立つ不幸をお許しください…)と、覚悟を決めた。と、その時だった。黒スーツを着た男がいきなり目の前に現れ、下僕達から桜井の腕を解き放ってくれたのだ。ガバッと。むんずと。
「本当に申し訳ありません、こいつ礼儀知らずのバカで、ほんっとにどうしようもないやつなんですよ」見覚えのあるジャニ顔。森下だった。「今回限りなんで、どうか許して頂けないでしょうか?」
 僕は森下を以降神様と呼ぼうと、心に誓った。

「許せるわけねーだろ、ばーか」そりゃそうだ、シャブ中男よ。「逆の立場だったらどうしてんだよ?なぁ、おい?聞いてんの?おまえら、だれの許可でこんなことやってんだよ?」
 森下が答えた。
「フランデルベグストラーダ」



 ストラーダと言い終わる前に、男達の姿はきれいさっぱり、もうどこにもなかった。




「なぁ神様、なんなんだよそのフランダースの犬みたいなやつ。何者なの?」
「それは言えない」
「教えてくれたっていいじゃん神様」
「無理。ぜぇったい、無理」
「ネットで検索しても、出てこねーし」
「あたりめーじゃん、おもての名前じゃねーもん」


※一話で終わるはずでしたが調子に乗ってたらここまできてしまったよ。でも、いよいよ次回で「ユキノさん」最終回!(ちなみにマドハンドとかルーラというのはドラクエ用語で、田中が久しぶりにやってるのみて、使ってみたよ。)
デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.10

「恋は盲目だと人は言うけれど」 ユキノさん06

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「オレが、ユキノさんを、『もぐら』の生活から救い出す!」
 僕はビルの3階を改造した部屋の中で大声で叫んでいた。もだえながら。当時、部屋をシェアしていたランザン(漢字だと嵐山)が、ベッドの中でヤングジャンプを読みながら答えた。「さくらい、それは、あれだ、恋だ」

 そう、たぶん、久しぶりの「恋」だった。僕はユキノさんに「恋」をしていた。
 彼女をあの3畳の穴ぐらから救い出したい、もぐらの生活から救い出せるのは僕しかいない、僕はナイトだ、僕が彼女を救い出す白馬のナイトだっ!と心底思いながら、キッチンで大声で叫び、暴れまわっていた。
「テンションたけーなーおい、あたま、だいじょうぶかー?」いつの間にかランザンが側に来ていた。
「おれは、どうやら、恋を、したらしい」僕は立ち止まり、ランザンに向きなおって真剣に答えた。でもランザンは眠そうに「ふーん、あそ。おれ、ちょっとコンビニ行ってくるわ」とつれなく答えて、部屋を出て行った。

(当時のランザンはキャバクラのボーイをやっていて、お店の女の子と風紀(交際)しまくっていた。ランザンとの共同生活は正味3ヶ月だったが、その間、5人の女の子が部屋を出入りしていた。らん、さき、まどか、ゆい、めぐみ。彼は「恋愛」にはぜんぜん興味がなかったが、もしかしたらそんなそっけない雰囲気が、逆にお店の女の子達にうけていたのかもしれない)



 僕はあの大雨の日以来、毎日のようにユキノさんとメール交換をしていた。時間が合えばユキノさんと近くの喫茶店(その大半はドトールだった)でお茶をし、いろんなこと、他愛もないことを話しあった。お互い(特に彼女が)多忙だったので、会える時間は30分ぐらいしかなかったが、それでも僕は彼女に会えるだけで嬉しかった。






デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.09

「時給1万5千円〜2万7千円」 ユキノさん05

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 デートクラブ費用の6万だか8万をどうやってつくろうか?と、帰りの電車の中でそればかりを考えていた。というのは今つくった嘘で、実際は、彼女の生活のことを案じていた。彼女の日常生活は「もぐら」のそれだった。デートクラブの側にある雑居ビルの一室に、他の女の子達といっしょに住んでいた。彼女のプライベート空間は畳3枚分しかなかった。畳3枚分。仕事用の洋服が半分以上を占め、眠るスペースは畳1枚。本当に眠るだけの部屋、「もぐら」のような穴ぐら。昼間はそこで寝て、夕方「デート」にでかけ、太陽がのぼってから戻ってくる。毎日毎日その繰り返しなの、と微笑みながらユキノさんはつぶやいた。笑っていたけど、どこか寂しそうだった。(でも、もう、慣れたけどね)僕はたまらなくなって、彼女をぎゅっと抱きしめてあげたかった。その衝動をおさえるのに必死だった。
「一人暮らしをしたいから、その費用をためているの。でも、お化粧とか、お洋服を買っていると、お金がたまらなくて…」と彼女は言った。「それに、老後のお金も、ためないとね」

 おそらく、彼女の話してくれたお金のたまらない理由の大半は「うそ」だったと思う。毎日毎日、10万単位のお金が入ってくる生活。生理休暇以外は休みもとらず、ずっと「デート」を重ねているのだから、月に換算したらいったいいくらになるのだろう?1年続けたら、フェラーリは無理でもアルファロメオなら3台買える。洋服代でそんなにいくだろか?きっと大金が必要な理由が他にあったのだと思う。(それが何なのかは、最後まで彼女に聞くことはできなかった)





※(でも正直な話、お金を出せば彼女と抱き合えるのなら、8万なんて全然惜しくないと思ったし、むしろ、8万では申し訳ないと思うぐらい、かわいい女の子だった。今でもそう思う)
デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.07

「AV男優かと思った」 ユキノさん04

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 6万で本番だっただろうか?8万だったかもしれない。高級ソープなみの値段だったと思う。デートクラブは利用したことがないのでよく分からないが、オプションでどんどん値段が上がっていくシステムらしい。普通のデートコースから、ホテルコースまで。恋人気分を盛り上げるデリヘル、みたいなものだろうか?中国語では「公的援助交際機関」というらしい(うそ)。

 昨夜のお客さんは、ゴムはつけてたけど、途中でなぜか外れてしまい、中でいってしまったと、ユキノさんは微笑みながら話してくれた。

「わーい、ここだここだ、ありがとう」
 僕らは大塚家具の前に着いていた。
「すごい雨で、びしょびしょだね」僕は傘をいったん閉じて、雨を払った。
「ほんとうに、ありがとう」彼女は嬉しそうにおじぎをした。

 僕が連絡先の交換を申し出ると、彼女は快く受けてくれ、しかもデートクラブのアドレスまで教えてくれた。(営業?)という二文字が一瞬頭をよぎったけれど、気にしないことにした。
「さいしょは、すごくうさんくさい人だなって、思ったの」彼女は僕の目を見ながら笑って言った。「AV男優かと思った」
 僕は気の利いたことを返そうと思ったけれど、頭に浮かぶのはどれもこれも下品な言葉ばかりだったので、ただ笑っていた。

 笑ったあと、僕は彼女に聞いた。
「僕も、その、デートクラブに行って、いいかな?」(←本気、超本気)
 彼女は、ちょっとうつむいてから、顔をあげ、微笑みながら言った。
「…うん。…まってる」(←営業、信じたくないけどたぶん営業)



※つづきはまた明日。
デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.06

「きのうお客さんに中だしされたの」 ユキノさん03

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 この広い世界で、いっしょに並んで歩いているだけで幸せな気分にさせてくれる女の子なんて、いったい何人いるのだろう?

 彼女と歩きながら僕は何を話していたのか、今では何も思い出せない。頭がピヨピヨに浮かれまくっていたのだ。僕が何か言うたびに、彼女は微笑んで返してくれた。(あなたといっしょにお話ができてとっても嬉しいの)という、付き合い始めの恋人同士のような雰囲気を素で(演技で?)出せる子なんて、この世に存在するのだろうか?

 僕はこのままずっとユキノさんと話していたいと心底思った。大塚家具がもっとずっとずっと遠くに、五反田くらいにあればいいのに。雨が止まなければいいのに。ユキノさんはいつの間にか僕の傘に入っていた。いつの間に?僕が誘ったのか、それとも彼女から入ってきたのか?他人が見たら恋人同士にしかみえない雰囲気。やばい。心の中で誰かが叫んだ。やばい、好きになるかも。

「大塚家具って、お買い物?」この質問をしたのは覚えている。いろんな話をした後だった。
「ほんとうは、探してるのは、大塚家具じゃないの」そういって彼女は微笑んだ。ズキュンッ。(←打ち抜かれる音)「その近くにある産婦人科なの」
「産婦人科?」
「きのうお客さんに中だしされたの」微笑。ズキュンッ。(←悲しみに貫かれる音)

デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.06

「デートクラブ嬢ユキノさんについて02」

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 その日は朝から激しい雨が降っていた。大型で非常に強い台風が近づいていますと、朝の目覚ましテレビでいっていた。車道が池みたいになっていて、歩道にまで波が押し寄せてくる。傘をさしていても滴が上からたらたらと漏れてくる。「桜井、おまえの革靴、濡れたら大量破壊兵器だから、そのまま上にいていいぜ」とかなんとか言いながら、仲間や先輩は早々に地下街に避難した。

 台風が接近中の平日午後3時。駅前の大通り。さすがの新宿も人はまばらで、美女なんて待っても待っても通らなかった。地上にいたスカウト仲間は、僕と森下だけだった。
「雨は逆に好都合だ」森下が歩道を目で追いながら言う。「こんな雨の中、話かけるやつなんていない。チャンスだ。美女の警戒もゆるんでる。チャンスだ。顔を近づけないと声が聞き取れない。ますますチャンスだ。なぁ、桜井、ここはチャンスだらけじゃないか?地上の楽園だよな?」森下はジャニ顔だが理屈っぽいやつだ。でも確かに森下の言うとおりかもしれないと思った。これは恵の雨になるかもしれない。
「いいか桜井、この大雨の中、立ってるのはオレと、おまえだけだ。さすがだな、おまえは前から何かやるやつだと思っていた。オレと同じレベルの男に初めて出会った。オレは嬉しい。あの孔子様の言葉にこういうのがある『淑女は風と共に現れ風と共に消え、しかししこうして雨と共に立ち止まりやがて恋が生まれ子が生まれ』って桜井ー?さくらいくーん?」交差点の向こうに美女発見。青い傘。僕はもう走り出していた。見つけたもん勝ち、声かけたもん勝ち、だ。

(僕の最初の第一声はいつも決まっている。が、これこそがスカウトマンの極秘レシピなので僕は誰にも教えたことがない、し、これからも誰にも言うつもりはない)
「こんな雨の中、どこまで行くんですか?」
「大塚家具を、探してるの」
(オオツカ、家具?こんな大雨の中で?)「僕、場所知ってるので、良かったら案内しますよ」
 久しぶりに、本当に久しぶりに、すごくかわいい女の子に出会った。「すごくかわいい女の子」だったら五万といるが、「キャバクラや風俗で働けるすごくかわいい女の子」となるとものすごく少ない。彼女は、ユキノさんは、第一印象の人当たりが飛びぬけてよかったので、お父様方の受けが抜群にいいはず。売れっ子になる。間違いなく。色気も半端なく、ある。

「すごくかわいい女の子」なんて形容じゃみなさんに何も伝わらないと思うので、僕なりに表現してみたい。まず第一に、胸が大きい。(って顔じゃないじゃん)でもデブじゃない。むしろ細すぎる。髪は長い名古屋巻き。(当時、名古屋巻きって言葉があったかどうか知らないが、キャバ嬢がよくやるクルクル巻き髪のこと)顔は小さいのに目がクリクリと大きくて、その微笑みは岩をも打ち抜くいわんや男のハートをや、である。って、なんか森下みたいになってきたね、けっきょくユキノさんってどんな子なの?って、これじゃ伝わらないね、動物でいったらタヌキ顔。(イメージしてね)



デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.05

デートクラブ嬢ユキノさんについて01

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 題名にデートクラブ嬢と書いたのはその方が刺激的で興味を持って頂けるかなと思ったからで、特にデートクラブ嬢であることがこのお話の主題ではなくて、むしろそれはどうでもよくて、僕は今から、新宿で出会ったある一人の女の子の話をしたい。

 2年前、僕がまだスカウトマンをしていた頃、一度だけ新宿まで足をのばしたことがある。新宿でスカウトするというのはどういうことを意味するのか? 試しに(試せないか)新宿の有名なストリートで女の子に声をかけてみてください。何度か往来を行き来してれば、素敵なお兄さんに逆に声をかけられるだろう、様々な言語とボディーランゲージによって。『誰のお許しでここにいらっしゃるのですか?』というような内容のことを。
 その返答に困ったら? 
 実際、僕の知り合いで返答に窮し、お兄さんの素敵なお部屋にご招待され、それまでの人生で見たことも聞いたこともないような素敵な目にあった方がいらっしゃいます。(まだ新宿に監視カメラが設置される前のことですから、今はそんなツアーもないのかもしれませんが)

 で、話はもどって、新宿でスカウトするために。僕は先輩から「何かあったら『フランデルベグストラーダさん』に話がついています、と説明するのですよ」と教えられていた。フランデルベグストラーダいうのはもちろん仮名で実名はフランデルベグストラーダに負けず劣らず言いにくい覚えにくい名前だった。その名を先輩から聞いた瞬間、わけわかんねーと心底思ったが、仕方がない、僕の(ひいては僕の属する団体の)存亡にかかわることなので、僕は必死で「フランデルベグストラーダ」という名を暗記した。駅のホームで必死に暗記している最中、先輩から一つ付け加えられた。「アルタ前だけはやめろよ。上の方で話ややこしくなるから。アルタ前以外だったらどこでもいいよ」
 そして僕は山手線に乗り、人生で初めて新宿の地を踏んだ。スカウトマンとして。


デートクラブ嬢ユキノさん  2006.09.02

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桜井白パンダ

Author:桜井白パンダ
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